ただの気の迷いだったんだ。

Mom's Day


「まいどー♪」
 宇宙の意志は今買った物をじっと見つめていた。
 一輪のカーネーション。ただの花である。だがしかし、今日というこの日に限っては特別な意味を持つ花。
(母の日、かぁ)
 はぁ、とらしくもないため息をついた。そう――今日は母の日である。
 朝駆けにコスモスとダークマターに請求してみたがダークマターによって一蹴されてしまった。ちくしょう、可愛くないやつめ。
 また、ため息をついた。
 カードは既に昨日書いた。花は今買った。後は贈るだけである。だがしかし――
「むぃむぃー?」
「ぅおわっ!?」
 突然後ろから声をかけられて宇宙の意志は飛び上がった。
「何そんなにびっくりしてるのさ」
「あ、アカネむぃか……驚かすんじゃねぇむぃ」
 突然声をかけてきたのはアカネだった。にぱーといつもの笑顔を向けてくる。
 ただし、今日はいつもの独特な服ではなく、映画の郵便員が来ているような赤い服を着ていた。
「……何しとるむぃ?」
「ほら、今日母の日だからさ。素直にプレゼントを渡せない皆のために愛の配達人として活躍中♪」
 ちゃは☆
 そんな効果音がつきそうな感じで可愛らしくポーズをとる。宇宙の意志は思わず呆れてしまった。
「まあそんなわけで何か届けて欲しい物があったら届けるよ?」
 はい、と手の平を出してくる。

 本当に届くかどうかわからない。
 けれどやらないよりはマシだと思った。

「……誰の所にでも届けられるむぃ?」
「そりゃあもう!マグマの中だろうが深海の奥底だろうがどこでも届けてくるよ!」
「じゃ、じゃあこれ届けてきて欲しいむぃ!」
 半ば押し付ける形でカードとカーネーションを渡す。
「絶対、届けるむぃよ!」
「あ、うん。お任せあれ☆」
 早足で去る宇宙の意志を笑顔で見送るアカネ。
 と、彼の姿が完全に見えなくなってふと気付いた。
(誰に贈るのかなぁ?)
 追いかけて聞こうとはせず、アカネは歩き出した。


 部屋に戻って宇宙の意志は頭を抱えていた。
 相手の名前を言うのを忘れていた事に気付いたのだ。
(あー、もう!!)
 ボスン
 ベッドに飛び込む。自分に対する怒りとか後悔よりも、何故か悲しみの方が強かった。
 なんだか何も考えたくなくて、宇宙の意志は目を閉じた。


 遠い遠い昔の事だったと思う。
 彼と、彼女と、私の三人ですごした記憶だ。
 あの頃は暖かかった。
 彼に何かを教えてもらうのが好きだった。
 彼女に撫でてもらうのが好きだった。
 私が笑うと二人も笑った。
 そんな日々が、好きだった。
 ずっと続けばいいのにと、思っていた。


 ハッとして目が覚めた。
 いつの間にか外は暗くて、大分長い間眠っていた事を知った。
(……あれ?)
 ふと、宇宙の意志は机の上に何かあるのに気がついた。確かこの間片付けてから何も置いていなかったはずなのだが。
 のたのたと宇宙の意志は机に近づいた。
 それは一枚の白いカードだった。
 手にとって中を開けて見る。

 そこにはただ一言、「ありがとう」と書いてあった。

「飯だぞー!」
「今行くむぃー!」
 大事そうにカードを戸棚にしまって、宇宙の意志は夕食へと急いだ。

 優しいあの手に撫でられた、そんな気がした。



☆あとがき☆
 母の日小説です。母の日っていつですか。
 本当は漫画の予定でした。でも途中まで描いて飽きました(ぁ)
 まあ短い、というか突貫作業で仕上げた物ですので……雰囲気を感じ取っていただけると嬉しいです。